。何も無いんですけど。
収 も少し、此処にいましょう。静かでいい。
弘 ええ、そうしましょう。まるで街ん中でないようですね。それに日が落ちたので涼しくなりましたよ。
あさ子 母さん、もう葭戸《よしど》を入れなくちゃ、駄目ね。
真紀 そうね。梅雨があがると、うんと暑くなるよ、きっと。
弘 入梅はいつでした?
真紀 十二日。
収 あがるのはいつです。
真紀 梅雨三十日って言うから。
あさ子 雷がなる迄よ。
真紀 此の頃は、雷が鳴ったって、なかなかあがりゃしない。
収 いろんなことが変りますね。あさ子さん、ピアノでも弾かないか。聴きたいんだって仰言ってたよ。
弘 ええ、是非一つ。
あさ子 駄目、あたし。
収 駄目だから聴きたいんだろう。巧いのなら他所《よそ》で聴けるよ。
あさ子 自分がさきに弾けばいいでしょう。ホ短調が楽譜なしで弾けるんだから。
収 僕の後では尚更《なおさら》弾けなくなるよ。さあ愚図々々言ってないで。
[#ここから3字下げ]
真紀、笑い笑い拍手の形。
あさ子、真紀を打つ真似。
真紀、大袈裟に逃げる。
それでも、あさ子はやっぱりピアノの蓋をあける。
[#ここで字下げ終わり]
真
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