あちらへ行きなさい。うちの妹なんかも始終やられてます。
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あさ子、笑い笑い去る。
間。
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弘 万事あの調子ですね。
収 動かざること山の如《ごと》しって言う形です。ところが、あの顔がだんだん恐くなるのですがね。
弘 みてると偉いものだと言う気がするんでしょう、きっと。
収 も少しすると、わけがわからなくなります。独り相撲ですからね。殴りつけるより他に逃げ道は無いのです。
弘 みる人にもよりますね、それは、あなたの神経ですよ、きっと。
収 あなたは?
弘 私は、ありふれた医学士ですよ。
収 あなたは、あの人の御主人には丁度いい人のようです。健康で卒直[#底本のママ]で、いい常識を持ってらっしゃる。それに身分も丁度いい。
弘 真面目にお話、して下さい。成可《なるべ》く静かにしましょう。こんなことはあの人には知らせたくないと思いますからね。あなただって異存はないでしょう。あの人をびっくりさせるだけの話ですから。
収 僕はちっとも冗談なんか言ってやしませんよ。こうなるってことは、始《はじめ》っからわかってたんです、何かしら、僕にはね。なんだかそれを
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