もしれません。だから、しかし、明瞭《はっきり》しておかないと、後でみんなが困ることですから。(間)万一です、万一ですね、あなたがあさ子さんを……。
収 若し、そうだったら、どうなさるんです?
弘 困りますね。
収 困ったって仕方がない。
弘 しかし、やっぱり困るより他、仕方が無いでしょう。私だってあの人を愛しています。
収 そうし始めたところでしょう。
弘 それは、しかし、五年でも、五分間でも、時間の問題ではないと思うけれど。
収 そりゃ、そうですね。全く。
弘 しかし私は、あなたも好きです。
収 止しましょう、僕は年上の人に同情されるのは好まないのです。殊にその理由の無い場合。
弘 いや、まだそこ迄は行っていない。同情されるのは私かもしれない、私は……。
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あさ子。
[#ここで字下げ終わり]
あさ子 (飲物を卓の上に置いて)どうぞ。
収 変に神妙だな。
あさ子 接待係り。
弘 いいものが出来てるでしょう、その腕で。
収 砂糖と食塩を間違えたりなんかして。
あさ子 大丈夫、みんな母さんがするんだから。
収 なんだ、運ぶだけか。
弘 それなら運搬係りの方だ。いいから
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