待ってたような気もするんです。
弘 そりゃ。どう言う意味です。
収 僕はあんまり長い間、あのひとを眺め過ぎてきました。此の頃じゃ、少しやり切れない気がするんです。そんなことをしてるのがです。でも、今更どうすることも出来やしない。今急に僕が来なくなったりしたら、きっとこの家の人が変に思いますからね。だからと言って、僕は今んなって僕を愛して下さいなんて言えませんよ。笑われるかもしれませんからね、長い間他人に見られないで他人のすることを見ていた罰でしょう。
弘 私には、どうもよくわからない。なぜ、あなたは……。
収 いや、僕の考えは多分間違ってるでしょう。それはわかっています。まともな考え方じゃないってことはわかってく[#底本のママ。]るんだけど、やっぱりそんな気がするんです。どうにも仕様の無いことです。あの人を喰った顔をみてると、僕は呆《あ》っ気《け》にとられてしまいます。あまりみごとなとぼけ顔にぼんやりして了うのです。手も足も出なくなるって言う言葉がありますが、こんなんだと思いますね。だから、誰か、あなたでもいい、そんなひとが不意に現れて、どんどん物事を処理して呉れたら……。
弘 あなた
前へ
次へ
全38ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング