を見合せて頭を掻く。
[#ここで字下げ終わり]
あさ子 あら。
弘 どうも。
あさ子 (困って)あらあら母さん、どうしましょう。あたし大変なこと言ってしまった。
真紀 しらない、私はしらない。
[#ここから3字下げ]
あさ子、両手で顔を蔽う。みんな笑う。
[#ここで字下げ終わり]
弘 (収に)学校は、何をおやりです。
収 ……。
あさ子 独文ですの。
弘 いいなあ、そいつは。
あさ子 怠け文学部。
収 笑われた仕返しかい。
弘 私は、美学をやりたかったのだが、親父がどうしても許して呉れないので、到々医者にされて了いました。大した方向転換です。癪《しゃく》に触ったもんで一週間ほどってもの、食事をとらないで頑張ってやりましたよ。尤もそれは家だけで、外ではやっていましたけれど。(笑う)
真紀 おや、そうでしたの。それじゃ、収さんと合うわけですよ。私、一寸失礼。(去る)
弘 文学は、何を専門になさるんです。
収 何って、別に定《きま》ってやしないんです。
あさ子 仰言いよ。
収 言うことなんて、ないじゃないか。
あさ子 あるんですよ、ほんとは。
弘 そりゃ、あるでしょう。
あさ子 あのね。

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