で字下げ終わり]
弘 (あさ子に)この間はどうも、失礼しました。あの時言ってらしった症状ね、今日血液検査表が出来ました。やっぱり、仰言ってたとおりでしたよ。
あさ子 そうですか! やっぱりあたしの言ったとおりでしたの。(弘の差出す紙片を手にとって)まあ、ほんと。
弘 然し、完全にあなたの勝と言うわけじゃありませんよ。その三番目の表を御覧なさい。それじゃない、その下、それそれ。肘静脈血の窒素含有物の定量です。まだまだ議論の余地はありそうですね。尤《もっと》も……。
あさ子 あたし忘れていましたわ。此の間は、どうも御馳走さまでした。
弘 や、どうも。
真紀 なあに、突然びっくりするじゃないの。
あさ子 (母を睨む)いいわ、母さん。(手が眉の所へ行く)
真紀 また。
あさ子 母さんこそ。
弘 ちっともわかりゃしない。
あさ子 母さん。
真紀 ん?
あさ子 先刻の電話、誰?
弘 (笑って)うまく誤魔化《ごまか》した。
あさ子 あら、そうじゃないんです。ほんとなんですよ。御自分の名前も仰言らないで、誰だかわかりますか、って笑ってるんですもの、とても変なのよ。
[#ここから3字下げ]
弘、真紀と顔
前へ 次へ
全38ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森本 薫 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング