坐りでもしたら、それこそ庄左衛門と選ぶところはない。俺も小山田といっしょにだけはなりたくない!
「いっそこの女を手に懸けたら!」と、途中で考えたことがふたたび彼の心に甦《よみがえ》ってきた。「そうだ、ここまで追詰められては、俺もこの女を道伴侶《みちづれ》にするほかに救われる道はない。不便《ふびん》ながらも、お前の命は貰ったぞ! 何事もお主《しゅう》のためと観念して、一足先に行ってくれい。それがお前にとっても一番いい道かもしれない、その肚《はら》に宿ったという不幸な子どものためにも!」
 彼は頭だけ持上げて、そっと隣の寝床を見遣った。おしおは尋常に枕をしたまま、こちらを向いてすやすや寝入っている。その整った安らかな寝息が、いかにも男に信頼して、身も心も任せきっているように見えていじらしい。
「何も知らずに寝ているなあ!」
 こう彼は呟いたまま、しばらく女の寝顔に見恍《みと》れていたが、何と思ったかきゅうに首を縮めて、またすっぽり夜着を引被《ひっかぶ》ってしまった。彼にはこの女を手に懸けるなぞということはできそうにもなかった。が、できなければどうしようというのだ? もう一日経てば、否でも応
前へ 次へ
全127ページ中86ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
森田 草平 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング