た。これまで自分の本心を明さないで、始終|欺《あざむ》き通しに欺いてきた上に、最後に自分が死の覚悟をする手段として、相手の女を手に懸けようとする? 俺の心は鬼か蛇《じゃ》か。まったく自分ながら愛憎《あいそ》の尽きた男だ!
 彼は眼を瞑《つぶ》ってその心を払い退けようとした。いっそこのまま女の顔を見ないで引返してしまおうかとも思ってみた。が、そう思っただけで、足はやっぱり向いた方へ歩いて、だんだん女の家に近づいていた。
 何《なんに》も知らないおしおは、例によって愛想よく男を迎えた。
「今夜は少しゆっくりしてもいいように、同宿の者へも頼んできた。晩《おそ》くなったら、ここで泊ってもいいのだ。これでひとつお酒を購《と》ってきてくれ」と、小平太は懐中《かいちゅう》から小粒を一つ出して渡した。
「まあ珍らしい、お酒を召しあがる?」と、おしおは可訝《けげん》そうに相手の顔を見返したが、「でも、ゆっくりしていいとおっしゃるのは嬉《うれ》しい。わたしもじつはこの間から聞いていただきたいと思っていることもある。では、すぐに行って参《さん》じましょ」と、いそいそとして出て行った。
 ものの十分とは経《た
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