たふりをして、この場を納めるほかないと思ったので、
「なるほど分りました」と、下を向いたまま言いだした。「一時の血気に速《はや》って、兄上の御迷惑になるとも知らず、一味に加担しましたのは、重々私の心得違いでした。では、お言葉に従って、大石殿始め同志の方々には相すみませぬが、誓約を破って脱退することにいたしましょう」
「しかとその気か」
「何しに虚偽《いつわり》を申しましょう? 私とてもしいて命を捨てとうはござりませぬ。その代りには、兄上、大石殿始め一党のことはどうぞ御内分にしてくださりませ」
「うむ、お前がそう心を改めた上は、わしも好んであの方々の邪魔をしようとは思わぬ。御一統の企てについては、ほかから漏れたら知らぬこと、わしからは金輪際《こんりんざい》口外《こうがい》すまい。それだけは固く約束しておくよ」
「どうかそのようにお願いいたします」
「しかし、お前としても今の言葉はどこまでも守ってくれねばならぬぞ」と、新左衛門はあらためて念を押すように言った。「お前が浪人した上に、二人|揃《そろ》って扶持《ふち》に離れるようなことがあってはならぬからな――ま、これはここだけの話しじゃけれど
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