」と、新左衛門の声は思わず筒抜《つつぬ》けた。
「はい、加担しております」と、小平太も度胸を定めて言いきった。「主家の没落に遇《あ》って武士の意気地《いきじ》を立てるには、そのほかに道もおざりませぬ。兄上、お察しくだされい」
「ふむ、それは困ったことになったな」と、新左衛門は両腕を拱《こまぬ》いたまま、溜息《ためいき》を吐いた。
「何とおおせられます?」と、小平太も顔色を変えた。「では、兄上は大石殿の一挙に不同意じゃとおおせられるか」
「ずんと不同意じゃ」と、新左衛門は相手の眼を見返したまま言った。「考えてもみい、今の浅野の浪人どもがそのような暴挙に出て、お膝元《ひざもと》を騒がしたら、戸田のお家はどうなると思う? 去年|内匠頭様《たくみのかみさま》刃傷《にんじょう》の際にも、大垣の宗家《そうけ》を始め、わが君侯にも連座のお咎《とが》めとして、蟄居《ちっきょ》閉門《へいもん》をおおせつけられたではないか。今度そんなことがあれば、お家の興廃《こうはい》にも係《かかわ》る一大事じゃ。お前にはそれが分らぬか」
そう言われてみると、小平太には何と返す言葉もなかった。で、しばらく俯向いたまま無
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