太は黙って表へ飛びだした。
五
小平太が進んでこの危い役割を引請《ひきう》けたのは、一つは心のうちを見透《みすか》されまいとする虚勢《きょせい》からでもあったが、一つにはまた、ここで一番自分の働きぶりを見せて、中田理平次なぞとはまるで違った人間だということを同志の前にはっきり証拠立てておきたかったからでもあった。いや、同志の前というよりは、第一自分の前に証拠立てたかった。だって、小平太の心を疑っているものは、何人《だれ》よりもまず彼自身であったから! そこで彼は与えられた機会を、よく考えてもみないで、しゃにむに掴《つか》んでしまった。が、一党に対する責任を思えば、安兵衛から注意されるまでもなく、この任務はあまりにも重かった。もし怪しい奴と睨《にら》まれて、町奉行の手にでも引渡されたら……そして、どうしても密事を吐かねばならぬような嵌目《はめ》に陥《おちい》ったら……
「そんなことにでもなれば、俺一人ではない、一党の破滅だ!」と、考えただけでも足の竦《すく》むような気がして、彼は思わず街《まち》の上に突立ってしまった。
が、それとともに、「一命に懸けても」と二人の前に誓
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