長屋と母屋《おもや》との間に大竹の矢来を結《ゆ》い廻して、たとい長屋の方へ打入られても、母屋へは寄りつかれないようにしてあるという噂《うわさ》も聞くが、このごろはあちらでもお出入り以外の物売はいっさい入れないようにしているから、最近の様子はさっぱり分らない。そのへんも十分見届けてきてもらいたいな」
「それに」と、安兵衛もそばから言葉を添えた。「かねがね山田宗※[#「彳+扁」、第3水準1−84−34]のところへ弟子入りをしている脇屋氏《わきやうじ》(大高源吾のこと、京都の富商脇屋新兵衛と称して入りこむ)から、吉良邸では来月の六日に年忘れの茶会があるという内報もあった。すれば、五日の夜は必定《ひつじょう》上野介在宿に極《きわ》まったというので、討入はおおよそその夜のことになるらしい大石殿の口ぶりでもあった。だが、頭領としては、その前にもう一度邸内の防備の有無を見定めておきたいと言われるのだ。で、もしお手前の働きでそのへんの事情が確実に分ったら、吾々が待ちに待った日もいよいよ近づいたというものだ。大切《だいじ》な役目だ、しっかり遣ってきてもらいたい」
「心得ました」と、小平太はそれを聞いて、
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