出させるようにした。
で、それがすんでからいったん宿へ帰ったが、気になるので、一日置いてまた出かけてみた。おしおはもう片時《かたとき》も小平太のそばを離れない。「どんな苦労でも厭いませぬから、どうかわたしをおそばへ引取ってくださいませ。一人の母にさえ別れては、こうしているのが女の身では心細うてなりませぬ」と、男の膝《ひざ》に縋《すが》ってかき口説《くど》いた。
「そう言《い》やるのももっともじゃが、わしも今では他人の家に厄介《やっかい》になってる身……」
「では、どうぞあなたがここへ引移ってくださいませ。こんな穢《むさ》い所でお気の毒ですが、たとい賃仕事《ちんしごと》をしてなりとも、わたしはわたしで世過《よす》ぎをして、あなたに御迷惑は懸けませぬ」と、女の腰はなかなか強い。
これには小平太も当惑した。心の中では、こうしてだんだん身抜きのできない深みへはまってきた自分の愚しさが、何よりもまず悔《く》いられた。が、今となってはどうにもしかたがないので、一時|遁《のが》れの気休めに、
「それもそうだが、わしもいつまで浪人をしているつもりでもない。戸田様に御奉公をしている兄にも頼んで、方々
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