へ渡りがつけてあるから、近いうちには何とか仕官《しかん》の途《みち》も着こうかと思っている。その前に内密《ないしょ》でそなたといっしょにいることが、骨折ってくれている兄にでも知れたら悪い。たとい一合二合の切米《きりまい》でなりとも、主取《しゅど》りさえできたら、きっと願いを出して、表向きそなたを引取るようにするから、それまでのところは、寂しかろうが、このまま御近所の世話になっていてもらいたい。あんまり引っこんでばかりいては、気もくさくさするだろうから、初七日《しょなぬか》でもすんだらまた茶店へも出るようにしたがいい。なに、それも永いことではない。わしも暇さえあれば、ちょくちょく会いに来るからね」と、さまざまに言い拵《こしら》えて、やっと相手を納得させた。
 で、その日の七つ下《さげ》りに、小平太は屈托《くったく》そうな顔をしながら、ぼんやり林町の宿へ戻ってきた。すると横川勘平が待ち構えていて、相手の顔を見るなり、
「おお水原か、いいところへ戻ってきた。貴公でなくちゃできない仕事がある」と、いきなり言いだした。そばには安兵衛の長左衛門も居合せて、何やら事ありげな様子に見えた。
「何だ何だ
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