そうな気がしたので、とある居酒屋が見つかったのを幸い、そっと暖簾《のれん》をくぐった。あり合せの鍋物を誂《あつら》えて、手酌《てじゃく》でちびりちびり飲みだしたが、いつもの小量にも似ず、いくら飲んでも思うように酔わなかった。それでも彼は、自分で自分を忘れようとでもしているように、後から後からと銚子《ちょうし》を重ねた。
一刻《いっとき》ばかりして、彼がその居酒屋を出た時は、もう子《ね》の刻に近かった。が、彼はすぐに両国の方へ引返そうとはしないで、何と思ったか、元来た坂本の道を真直に千住の大橋に向って歩きだした。その時はもう雪も止んで、十四日の月が皎々《こうこう》として中天《ちゅうてん》に懸っていた。通りの町家は皆|寝鎮《ねしず》まっていた。前を見ても後を見ても、人通りはない。自分では酔わぬつもりでも、脚はかなりふらふらしていた。彼はその千鳥足《ちどりあし》を踏み締めながら、狂人《きちがい》のように、どんどん雪を蹴《け》って駈《か》けだした。
大橋の上まで来た時、小平太ははっとしたように吾に返った。
「いったい、俺はどこまで行く気だろう? それよりも、今はもう何剋《なんどき》だろう?
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