明けずにしまったのもそれだ。打明けずにさえおけば、いつでも兄とした約束を真実《ほんとう》にすることができるというゆとり[#「ゆとり」に傍点]がある。不埓《ふらち》でも、狡猾《ずる》いのでもない、俺はただそのゆとり[#「ゆとり」に傍点]が欲しかったのだ。今日でももし太夫に会って、いつぞやのような優しい言葉でも懸けられようものなら、俺はすぐにもこの人のために死にたくなる。それが怖ろしかったのだ!」
 彼はもうそんな風にして自分の心を見詰めるに堪えられなかった。で、夜はまだ早いが、蒲団を敷いて一人でごろりと横になった。が、どうしても瞼眼《まぶた》が合わないで、とうとうまんじりともせずに一夜を明した。

     十二

 いよいよ十二月十四日、吉良邸討入の当日とはなった。その日は朝から霏々《ひひ》として雪が降っていた。月こそ変れ、先君内匠頭の命日である上に、今生《こんじょう》の名残りというので、大石内蔵助を始め十余名の同志は、かねての牒合《しめしあわ》せに従って、その日早く高輪泉岳寺にある先君の墓碣《ぼけつ》に参拝した。堀部安兵衛も同宿の毛利小平太、横川勘平を代表して、その席に列《つら》なっ
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