其の代り隨分難儀もした樣でした。何しろ親戚では結婚に反對した位だから、二人の熱烈な、同時に無力なロマンチケルに對して、丸で補助と云ふものをして呉れませんでしたから、又二人の方でも、それを受けませんでしたから。併し物質的に苦しむのと同じ比例に於いて、二人は精神的に滿足だつたらうと信じます。そして、特殊な運命で結び附けられた二人は、なか/\物質的の苦痛位で醒めるやうな夢ではなかつたらうと思ふからです。で、互に滿足した二人は滅多に私の家へも寄り附きませんでした。其間に四谷見附の花家とかと往來《ゆきゝ》して居たやうですが、其邊の悉しい話は私は殆ど知らない。只一昨々年の暮の大晦日の前の日と云ふに、上野山君がおしづさんが子を生んだと云ふので、私の家へ駈け込んで來ました。それから又五六箇月の間頻繁に往來をしましたが、夏の初めに成つておしづさんが又喀血して、茅ヶ崎へ轉地することに成りました。二人が茅ヶ崎へ移つてから更に病勢が宜しくないと云ふので、入院の便を計るために、私が二人と親戚との間を調停したのが妙な誤解を招いて、二人はそれから私の家へ來なく成りました。尤も、おしづさんからは一二度手紙を貰つたやう
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