「青白き夢」序
森田草平
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)阿母《おつか》さんに
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぺちやんこ[#「ぺちやんこ」に傍点]と坐つて、
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)其年の冬いよ/\右の足を
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おしづさんが安倍能成君の紹介で、阿母《おつか》さんに連れられて私の許へ來たのは、今から恰度《ちやうど》六年前の春の末だつたらうと記憶してゐます。何でも其當座は毎日のやうに遣つて來ました。それは長い間の病院生活の後で、たとへ松葉杖をついてなりとも人中へ出られると云ふ物珍らしさと、一つは文學で身を立てようと思ふうら若い女の一心からであつたのでせう。朝の間に來て、一日私の宅で遊んで居て、晩に歸る。別に私の宅でも構ひはしない。夕食後の散歩がてら番町の自宅まで送つて行つて上げたこともありました。靖國神社の裏のベンチの上で休んで居ると散り際の櫻の枝頭に殘つて居るのが眼に留まりました。私は松葉杖を傍に置いて、がつくりとベンチの上に凭れかゝつたおしづさんの姿と、其色の褪《あ》
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