しづさんのやうな身體に成つた以上は、獨身で終るのが正當だ、あれで結婚なぞするのは、見つともないと云ふやうな理窟からだと聞きました。が、それは餘りにいはれのない反對で、中の兄さんと云ふのが一人で皆の矢面に立つて、二人を結婚させたと云ふことです。私も無論それに賛成でした。想ふに、文藝と云つた處で沙門成道の道とは違ふ。それに一向專念して、浮世の事は忘れて、尼にでも成つたやうな氣で一生を暮す――そんな事が出來るものでない。寧ろおしづさんは蝙蝠傘を慕つたと同じやうに、世間が己れに與へまいとするものに一層心を惹かれたのではあるまいか。今から思ひ合はせると、おしづさんが文學だけに滿足されないで、繪畫其外いろんな事に手を出したがつたのも、矢張自分が求めて居るものゝ與へられない暗中摸索ではなかつたらうか。それなればこそ、上野山君の許へ行つて初めて本當に落着くことが出來た。私は何うもさう考へるのを至當のやうに思ふ。
それにおしづさんは作家としての好い素質を持ちながら、一方では又非常に家庭的な女でした。身體さへ滿足であつたら本當に好い世話女房にも成り得たことゝ信ずる。あんな不自由な身體をしながら、片時も手
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