うに見えた。いろ/\な同人雜誌の記者と交はつて見たり、又は油繪を習はうなぞと云ひ出して見たりした。私はおしづさんを津田青楓君に紹介しました。おしづさんは作品にも表はれて居る通り、初心《うぶ》なあどけない所と共に、一方には又非常に器用だちな所がある。行く所として可ならざるはなしと云ふ工合で、畫の方でも素人としては誠に器用な、其上何處かぎろりとした所があるやうに私どもにも見受けられた。津田君も可愛がつて指導して居られるやうでした。が、さうかうして居るうちに、最初の病氣の結核菌が未だ體内に殘つて居て、肺を冒すやうに成つたと云ふので、おしづさんは伊豆の大島へ轉地療養をするやうに成つた。何でも私の宅へ來てから三年目の夏だつたらうとおぼえて居ます。おしづさんは大分悲觀して、最う一生島で暮して、内地へは歸らない。私とも生き別れのやうなことを云つて出立しました。
處が大島には上野山清貢君が矢張畫をかきに來て居て、二人の間に愛が成立した。そして、十箇月許り島に逗留した後で、二人は阿母さんと一緒に手を携へて歸つて來ました。二人の結婚には親戚の間に大分反對があつたやうでした。つまり最初にも述べたやうに、お
前へ
次へ
全11ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森田 草平 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング