る者もあるまい。云わば鴉《からす》や雀《すずめ》も同様で、それを捕獲して警察署へ届け出る者もあるまい。鳶は現在保護鳥の一種になっているから、それで届け出たのかも知れないが、昔なら恐らくそれを捕獲しようと考える者もあるまい。それほどに鳶は普通平凡の鳥類と見なされていたのである。
 私は山の手の麹町に生長したせいか、子供の時から鳶なぞは毎日のように見ている。天気晴朗の日には一羽や二羽はかならず大空に舞っていた。トロトロトロと云うような鳴き声も常に聞き慣れていた。鳶が鳴くから天気がよくなるだろうなぞと云った。
 鳶に油揚《あぶらげ》を攫《さら》われると云うのは嘘ではない。子供が豆腐屋へ使いに行って笊《ざる》や味噌《みそ》こしに油揚を入れて帰ると、その途中で鳶に攫って行かれる事はしばしばあった。油揚ばかりでなく、魚屋《さかなや》が人家の前に盤台《はんだい》をおろして魚をこしらえている処へ、鳶が突然にサッと舞いくだって来て、その盤台の魚や魚の腸《はらわた》なぞを引っ掴んで、あれ[#「あれ」に傍点]という間に虚空《こくう》遥かに飛び去ることも珍しくなかった。鷲《わし》が子供を攫って行くのも恐らく斯
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