かも知れない。しかし私たちの子供のときには、こういう絵のような風情はめずらしくなかった。絵としてはもちろん月並《つきなみ》の画題でもあろうが、さて実際にそういう風情をみせられると、決して悪くは感じない。まわり燈籠、組みあげ燈籠、虫籠、蚊いぶしの煙り、西瓜の截ち売り、こうしたものが都会の夏の夜らしい気分を作り出すとすれば、子供たちの打ち揚げる小さい花火もたしかにその一部を担任していなければならない。
花火は普通の打ち揚げのほかに、鼠花火、線香花火のあることは説明するまでもあるまい。鼠花火はいたずら者が人を嚇《おど》してよろこぶのである。線香花火は小さい児や女の児をよろこばせるのである。そのほかに幽霊花火というのもあった。これはお化け花火とも云って、鬼火のような青い火がただトロトロと燃えて落ちるだけであるが、いたずら者は暗い板塀や土蔵の白壁のかげにかくれて、蚊に食われながらその鬼火を燃やして、臆病者の通りかかるのを待っているのであった。
学校の暑中休暇中の仕事は、勉強するのでもない、避暑旅行に出るのでもない、活動写真にゆくのでもない。昼は泳ぎにゆくか、蝉やとんぼを追いまわしに出る。そう
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