の歯一枚をめぐって、廻り燈籠のように私の頭のなかに閃《ひらめ》いて通った。
私はその歯を把《と》って海へ投げ込んだ時、あたかも二|尾《ひき》の大きい鱶《ふか》が蒼黒い背をあらわして、船を追うように近づいて来た。私の歯はこの魚腹に葬られるかと見ていると、鱶はこんな物を呑むべく余りに大きい口をあいて、厨《くりや》から投げあたえる食い残りの魚肉を猟《あさ》っていた。私の歯はそのまま千尋《ちひろ》の底へ沈んで行ったらしい。わたしはまだ暮れ切らない大洋の浪のうねりを眺めながら、暫くそこに立ち尽くしていた。
前の下歯と後の上歯と、いずれもそれが異郷の出来事であった為に、記憶に深く刻まれているのであろうが、こういう思い出はとかくにさびしい。残る下歯六枚については、余り多くの思い出を作りたくないものである。[#地付き](昭和12・7「報知新聞」)
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我が家の園芸
上目黒へ移ってから三年目の夏が来るので、彼岸《ひがん》過ぎから花壇の種蒔《たねま》きをはじめた。旧市外であるだけに、草花類の生育は悪くない。種をまいて相当の肥料をあたえて置けば、まず普通の花は咲くので、われわれのよ
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