は、ひとりの天狗を小脇に抱えて駈け出した。[#地付き](明治37・11)
(三)鼓子花
午後三時頃、白河《しらかわ》停車場前の茶店に休む。隣りの床几《しょうぎ》には二十四、五の小粋な女が腰をかけていた。女は茶店の男にむかって、黒磯《くろいそ》へゆく近路を訊いている。あるいてゆく積りらしい。
まあ、ともかくも行ってみようかと独り言を云いながら、女は十銭の茶代を置いて出た。
茶屋女らしいねと私が云えば、どうせ食詰者《くいつめもの》でしょうよと、店の男は笑いながら云った。
夏の日は暑い。垣の鼓子花《ひるがお》は凋《しお》れていた。[#地付き](明治39・8)
(四)唐辛
日光の秋八月、中禅寺《ちゅうぜんじ》をさして旧道をたどる。
紅い鳥が、青い樹間《このま》から不意に飛び出した。形は山鳩に似て、翼《つばさ》も口嘴《くちばし》もみな深紅《しんく》である。案内者に問えば、それは俗に唐辛《とうがらし》といい、鳴けば必ず雨がふるという。
鳥はたちまち隠れてみえず、谷を隔ててふた声、三声。われわれは恐れて路を急いだ。
仲の茶屋へ着く頃には、山も崩るるばかりの
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