《きたいん》に桜を観る。ひとえはもう盛りを過ぎた。紫衣《しい》の僧は落花の雪を袖に払いつつ行く。境内《けいだい》の掛茶屋にはいって休む。なにか食うものはないかと婆さんにきくと、心太《ところてん》ばかりだと云う。試みに一皿を買えば、あたい八厘。
 花をさそう風は梢をさわがして、茶店の軒も葭簀《よしず》も一面に白い。わたしは悠然として心太を啜《すす》る。天海《てんかい》僧正の墓のまえで、わたしは少年の昔にかえった。[#地付き](明治32・4)

     (二)天狗

 広島《ひろしま》の街《まち》をゆく。冬の日は陰って寒い。
 忽《たちま》ちに横町から天狗があらわれた。足駄《あしだ》を穿いて、矛《ほこ》をついて、どこへゆくでもなし、迷うが如くに徘徊《はいかい》している。一人ならず、そこからも此処《ここ》からも現われた。みな十二、三歳の子供である。
 宿に帰って聞けば、きょうは亥子《いのこ》の祭りだという。あまたの小天狗はそれがために出現したらしい。空はやがて時雨《しぐれ》となった。神通力《じんつうりき》のない天狗どもは、雨のなかを右往左往に逃げてゆく。その父か叔父であろう。四十前後の大男
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