大雨《おおあめ》となった。[#地付き](明治43・8)

     (五)夜泊の船

 船は門司《もじ》に泊《かか》る。小春の海は浪おどろかず、風も寒くない。
 酒を売る船、菓子を売る船、うろうろと漕ぎまわる。石炭をつむ女の手拭が白い。
 対岸の下関《しものせき》はもう暮れた。寿永《じゅえい》のみささぎはどの辺であろう。
 なにを呼ぶか、人の声が水に響いて遠近《おちこち》にきこえる。四面のかかり船は追いおいに灯を掲げた。すべて源氏の船ではあるまいか。わたしは敵に囲まれたように感じた。[#地付き](明治39・11)

     (六)蟹

 遼陽城外、すべて緑楊《りょくよう》の村である。秋雨《あきさめ》の晴れたゆうべに宿舎の門《かど》を出ると、斜陽は城楼の壁に一抹《いちまつ》の余紅《よこう》をとどめ、水のごとき雲は喇嘛《ラマ》塔を掠《かす》めて流れてゆく。
 南門外は一面の畑で、馬も隠るるばかりの高梁《コウリャン》が、俯しつ仰ぎつ秋風に乱れている。
 村落には石の井《いど》があって、その辺は殊に楊《やなぎ》が多い。楊の下には清《しん》国人が籃《かご》をひらいて蟹《かに》を売っている。蟹の
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