左の手はぬらぬらして真紅になります。もう少しの御辛抱ですと云いながら案内者は足を早めて登って行きます。わたしもつづいて急ぎました。
路はやがて下《くだ》りになったようですが、わたしはその「もう少し」というところを目的《めあて》に、ただ夢中で足を早めて行きましたからよくは記憶していません。それから愛宕《あたご》神社の鳥居というのが眼にはいりました。ここらから路は二筋に分かれているのを、私たちは右へ取って登りました。路はだんだんに嶮《けわ》しくなって来て、岩の多いのが眼につきました。
妙義|葡萄酒《ぶどうしゅ》醸造所というのに辿《たど》り着いて、ふたりは縁台に腰をかけました。家のうしろには葡萄園があるそうですが、表構えは茶店のような作り方で、ここでは登山者に無代《ただ》で梅酒というのを飲ませます。喉《のど》が渇いているので、わたしは舌鼓を打って遠慮なしに二、三杯飲みました。そのあいだに案内者は家内から藁《わら》を二、三本貰って来て、藁の節を蛭の吸い口に当てて堅く縛ってくれました。これはどこでもやることで、蛭の吸い口から流れる血はこうして止めるよりほかは無いのです。血が止まって、わたしも
前へ
次へ
全408ページ中222ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング