すませて、散歩がてら理髪店へゆく。大仁《おおひと》理髪組合の掲示をみると、理髪料十二銭、またそのわきに附記して、「但し角刈とハイカラは二銭増しの事」とある。いわゆるハイカラなるものは、どこへ廻っても余計に金の要ることと察せられた。店先に張子の大きい達磨《ダルマ》を置いて、その片眼を白くしてあるのは、なにか願《がん》掛けでもしたのかと訊《き》いたが、主人も職人も笑って答えなかった。楽隊の声が遠くきこえる。また例の活動写真の広告らしい。
理髪店を出ると、もう八時をすぎていた。露の多い夜気は冷やびやと肌にしみて、水に落ちる家々の灯かげは白くながれている。空には小さい星が降るかと思うばかりに一面にきらめいていた。
宿に帰って入浴、九時を合図に寝床にはいると、廊下で、「按摩《あんま》は如何《いかが》さま」という声がきこえた。
(三)
二十八日。例に依って六時入浴。今朝は湯加減が殊によろしいように思われて身神爽快。天気もまたよい。朝飯もすみ、新聞もよみ終って、ふらりと宿を出た。
月末に近づいたせいか、この頃は帰る人が一日増しに多くなった。大仁《おおひと》行きの馬車は家々の客を
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