して、封建時代に生まれた院本作者が、女主人公を忠義の乳母と定めたのは当然のことである。もし其の作者が現代に生まれて筆を執ったらば、おそらく女主人公を慈愛心の深い真実の母と定めたであろう。とにかく嘘でも本当でも構わない、わたしは「伽羅先代萩《めいぼくせんだいはぎ》」でおなじみの局政岡をこの初子という女に決めてしまった。決めてしまっても差支えがない。
 仙台市の町はずれには、到るところに杉の木立と槿《むくげ》の籬《まがき》とが見られる。寺も人家も村落もすべて杉と槿とを背景にしていると云ってもいい。伊達騒動当時の陰謀や暗殺は、すべてこの背景を有する舞台の上に演じられたのであろう。

     塩竈神社の神楽

 わたしが塩竈の町へ入り込んだのは、松島経営記念大会の第一日であった。碧《あお》暗い海の潮を呑んでいる此の町の家々は彩紙《いろがみ》で造った花紅葉《はなもみじ》を軒にかざって、岸につないだ小船も、水に浮かんだ大船も、ことごとく一種の満艦飾を施していた。帆柱には赤、青、黄、紫、その他いろいろの彩紙が一面に懸け渡されて、秋の朝風に飛ぶようにひらめいている。これを七夕《たなばた》の笹のようだ
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