のは無いと、わたしはつくづく感じさせられた。しかも満洲の水も「人馬飲ムベカラズ」ばかりではない。わたしが普蘭店《ふらんてん》で飲んだ噴き井戸の水などは清冽《せいれつ》珠《たま》のごとく、日本にもこんな清水は少なかろうと思うくらいであった。

     蛇

 海城の北門外に十日ほど滞留していた時である。八月は満洲の雨季であるので、わが国の梅雨季のように、とかくに細かい雨がじめじめ[#「じめじめ」に傍点]と降りつづく。
 わたしたちの宿舎のとなりに老子《ろうし》の廟があって、滞留の間にあたかもその祭日に逢った。雨も幸いに小歇《こや》みになったので、泥濘《でいねい》の路を踏んで香を献《ささ》げに来る者も多い。縁日商人も店を列《なら》べている。大道芸人の笙《しょう》を吹くもの、蛇皮線《じゃびせん》をひく者、四《よ》つ竹《だけ》を鳴らす者なども集まっている。
 その群れのうちに蛇人《だにん》――蛇つかいの二人連れがまじっていた。おそらく兄弟であろう、兄は二十歳前後、弟は十五、六であるが、いずれも俳優かとも思われるような白面《はくめん》の青年と少年で、服装も他の芸人に比べるとすこぶる瀟洒《しょう
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