》けにもなる。なにしろ大勢がわいわい云って餅を搗き立てるのであるから、近所となりに取っては安眠妨害である。殊に釜の火を熾《さか》んに焚《た》くので、風のふく夜などは危険でもある。しかしこれに就《つ》いても近所から苦情が出たという噂も聞かなかった。
運が悪いと、ゆうべは夜ふけまで隣りの杵《きね》の音にさわがされ、今朝は暗いうちから向うの杵の音に又おどろかされると云うようなこともあるが、これも一年一度の歳の暮れだから仕方がないと覚悟していたらしい。現にわたしなども霜夜の枕にひびく餅の音を聴きながら、やがて来る春のたのしみを夢みたもので――有明《ありあけ》は晦日《みそか》に近し餅の音――こうした俳句のおもむきは到るところに残っていた。
冬至《とうじ》の柚湯《ゆずゆ》――これは今も絶えないが、そのころは物価が廉《やす》いので、風呂のなかには柚がたくさんに浮かんでいるばかりか、心安い人々には別に二つ三つぐらいの新しい柚の実をくれたくらいである。それを切って酒にひたして、ひび薬にすると云って、みんなが喜んで貰って帰った。なんと云っても、むかしは万事が鷹揚《おうよう》であったから、今日のように柚
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