「そうか。それは丁度いい。兄がまいりましたと取次いでくれ」
「あの、旦那さまが……」と、お光は少し言い渋っているらしかった。
「旦那がどうした」
「わたくしに暇を出すようにと、お内儀さんに言っているようで……」
お光の声は陰って、その眼にはもういっぱい涙を溜めていた。
「なに、お前に暇を出す……」
栄之丞も赫《かっ》となった。妹に暇をくれるという以上は、やはり我々を疑っていると見える。奇怪至極のことである。いよいよ打っちゃっては置かれないと思った。
「それならば猶更のことだ。早く主人に逢わせてくれ」
十一
栄之丞は奥へ通されて、三河屋の主人に逢った。主人は四十以上の穏やからしい人物であった。栄之丞の話を聴いて彼は気の毒そうな顔をしていた。
「いや、それは御迷惑お察し申します。わたくしの方でも決して妹御《いもとご》に疑いをかけるの何のという訳ではございません。申せばこれも双方の災難で致し方がございませんから、どうか御心配のないように願います」
こう言われて見ると、栄之丞の方でも取ってかかりようがなかった。そのうちに女房も出て来て、同じく気の毒そうに言い訳をした。自分
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