その晩、治六は自分の相方の浮橋にむかって、それとなく八橋の身代のことを探って見ると、浮橋は急にまじめになった。
「なぜそんなことを聞きなんす。身請けの下ばなしでもありいすのかえ」
「なに、別にそういう訳じゃあねえ」と、治六はいい加減に胡麻化してしまったつもりでいた。
しかし相手の方では胡麻化されていなかった。くるわに馴れている彼女は、これを治六の一料簡ではないと見た。主人の次郎左衛門と内々相談の上で、それとなくさぐりを入れるに相違ないと鑑定した。彼女は直ぐにそれを花魁に耳打ちすると、八橋はしばらく考えていた。
「あとでその御家来さんに逢わせておくんなんし」
引け過ぎになって、次郎左衛門を寝かしつけてから、八橋は治六の名代部屋《みょうだいべや》へそっと忍んで来た。浮橋をそばにおいて、彼女は身請けの話を言い出した。彼女も浮橋の考えた通りに、それはお前の一存ではあるまい、主人に言い付けられてよそながら捜るのであろうと言った。治六は決してそんな訳ではない、ただ一時の気まぐれに訊いて見ただけのことだとまじめに言い訳をしたが、二人の女はなかなか承知しなかった。なんでも正直に白状しろと責めた。
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