がよかったかも知れない」
 次郎左衛門は今さら悔《くや》むように言った。この春よし原でつかった金だけでも、八橋の身請けは立派にできたのである。しかし自分は八橋の意見に従って、もとの堅気の百姓になろうと思っていた。堅気の百姓の家へ吉原の遊女を引き入れる訳にはゆかない。第一に親類の苦情が面倒である。それらの事情に妨げられて、今まで身請けを延引《えんいん》していたのであったが、こうなると知ったらば半年まえに思い切って身請けをしてしまった方が優《ま》しであった。それを悔んでももう遅い。自分はこの金のある限り、八橋に逢いつづけて、いよいよ金のなくなったあかつきに、なんとか料簡を決めるよりほかはないと言った。
 その暁にどういう料簡を付けるのか、治六はそれを心もとなく思った。勿論、根掘り葉掘り詮議したところで、どうで要領を得るような返事を受取ることのできないのは万々《ばんばん》承知しているので、彼もそのままに口をつぐんでしまった。あかりがついて、夜の町に師走の人の往き来が繁くなると、次郎左衛門は果たして駕籠を呼べと言い出した。しょせん止めても止まらないと思ったので、治六も一緒に供をして行った。
 
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