した。
「おめえさまも止したらどうだね。いや、行くなじゃあねえが、まあ当分は……。ともかくもここの御亭主と相談して、何か商売の道を立てて、自分たちの身分を決めた上で、それから行っても遅くはあるめえと思うが……」
今度は次郎左衛門の方が黙っていた。
「佐野の家をぶっ潰して唯ぼんやり江戸へ出て来たじゃあ、吉原へ面《つら》を出しても幅が利くめえから、なんとかこっちの身分を立てて、さて今度はこういうことにしたと、誰にも話のできるようにしてから大手を振って行く方がよかろうと思うが、どうでごぜえますね」
「まあ、いい。そんなことはあしたの話にして、今夜はお前も寝ろよ。おれももう寝る」と、次郎左衛門は相手にならずに衾《よぎ》をかぶろうとした。
主人が寝ると、家来があべこべに起き直った。
「いや、こんな事は今のうちにしっかり決めて置くがいい。わしはさっきから寝た振りをしておめえさまの様子を見ていたが、何をそんなに考げえていなさるね。聞かねえでも判っていると言うかも知れねえが、もし、旦那さま。江戸へ出るまではなんにも言うめえと思って、道中でも口を結んでいたが、あの吉原の女はおめえさまに隠して情夫《お
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