もお絹を裏切ることはできなかった。お絹の呪いも怖ろしかった。
「なぜ今夜お里を訪ねたろう」
どう思い直しても、彼は今夜のおのれを悔まずにはいられなかった。彼の涙は枕の上にはらはら[#「はらはら」に傍点]とこぼれた。
彼はまぼろしのように眼の前にあらわれて来たお里のおとなしやかな顔にむかって、手をあわせて幾たびか詫びた。
彼を安らかに眠らすまいとするように、雨は大きい屋根の瓦を夜通し流れて、軒の大樋《おおどい》に溢れるような音を立てていた。
十一
それから三日ばかりは御用|繁多《はんた》で、林之助は屋敷を出られなかった。九月にはいって晴れた空がつづいた。きょうは夕方から深川に発句《ほっく》の運座《うんざ》があるので、まずお絹の病気を見舞って、それから深川へまわろうと、彼は午《ひる》さがりに屋敷をぬけ出した。
往来の人はみな袷《あわせ》を着ていた。林之助も新しい袷を着た。澄み切った青い空に秋の風が高く吹いて、屋敷町には赤とんぼの群れが目まぐるしいほどに飛び違っていた。鷹匠《たかじょう》が鷹を据えて通るのも、やがて冬の近づくのを思わせた。町へ出ると、草鞋《わらじ》を吊
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