ば帰るまいとのことであった。
 相手が迷惑そうな顔を見せないので、林之助も腰を落ち着けてゆっくりと話しはじめた。しかしこういう家《うち》へふらりと遊びに来て、先方の茶や菓子を食って唯べらべら[#「べらべら」に傍点]としゃべっているほどの野暮でもないので、林之助は鮓《やすけ》でも取ろうと言った。ついでに酒を買って貰いたいといって、幾らかの銀《かね》を出した。
「降るのに気の毒だね」
「なに、隣りの子に頼みますから」
 隣りの女の子に使いをたのんで、お里は鉄瓶の下に炭をついだ。小降りにはなったらしいが、雨はまだしょぼしょぼと降っていた。百万遍の鉦らしいのが雨の中にきれぎれに聞えた。
「秋の雨はなんだか陰気で寂しゅうございます」と、お里は錦絵の花魁を貼ったうしろの壁を見かえりながら言った。
 自分はいったい陰気な質《たち》であるが、こういう日にはなんだか引き入れられるように気が滅入《めい》って、自然に悲しくなるなどと話した。きょうの花火がお流れになって、お前ばかりでない、みんなも陰気な顔をしているだろうなどと、林之助も言った。話はだんだんに暗い方へ糸を引かれて行って、このあいだの晩の続き話の
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