小さい二階家があって、格子と台所とが列んでいた。林之助はそっと格子をあけると、内では鈴の付いた鋏《はさみ》を置く音がきこえて、入口の障子がさらりとあいた。うす暗い行燈の灯の影をうしろにしているので、出て来た人の顔はこっちによく見えなかったが、「あら」と可愛らしい女の声が彼女であることを林之助はすぐ覚った。お里はいそいそとして、この若い侍を内へ招じ入れた。二階家といっても、俗にいう行燈建《あんどんだて》で、上下ともにひと間ずつしかないらしく、階下《した》の六畳には古いながらもよく拭き込んだ長火鉢を据えて、茶箪笥が行儀よく列んでいた。小さい神棚には燈明の灯が微かにゆらめいていた。
「こんな穢《きたな》いところで……」と、お里は恥かしそうに言い訳をしながら、綴《と》じくっていた小切れを片付けて薄い座蒲団を出した。林之助は長火鉢の前に坐らせられた。お里は茶をいれて、振出しの箱のなかから金平糖《こんぺいとう》などを出した。
「それでもよくいらして下さいましたね」
お里は嬉しそうに言った。おふくろは近所に百万遍《ひゃくまんべん》があって、あかりが点《つ》くとすぐに出て行ったから、四つ過ぎでなけれ
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