いように偲ばれた。打解けていながらだんだん離れてゆくような寂しい心持ち、それを林之助は我ながらどうすることも出来なかった。どうしてこんな心持ちになったのか、それも自分には判らなかった。
 お絹の胸にも不安のかたまりが鉛《なまり》のように重く沈んでいる。おとといの晩の気まぐれは自分でも深く後悔している。自分の男は林之助のほかにないという事がつくづく思い沁みた。殊にきのうの煩らいから、彼女は急に気が弱くなった。
 医者にも大事にしろと言われたが、けさから身体に悪寒《さむけ》がして、胸のあたりが痛んでならなかった。咳をするたびに、あばら[#「あばら」に傍点]へ強くひびいて切《せつ》なかった。彼女はからだの悩みの重なるに連れて、いよいよ林之助が恋しくなった。
 それにつけても、向島の一件を林之助が案外手軽く聞き流しているのが不安であった。お花やお若のおしゃべりが何を言ったか知れたものではない。それを林之助はどう聞いたか、なんと思っているのか、なまじ、何も言わずに打解けた様子を見せているだけに、心の奥底が知れなかった。
 お絹も林之助もこうした別々の心をもちながら、日の暮れる頃まで仲よく話した。
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