ぶたのやや窪《くぼ》んだ例の眼がいよいよ物凄く見えるのも林之助をおびやかした。
「お前さん。まだあたしを疑っているの」と、お絹は蒲団に片手を突きながら訊いた。
「なに、なんとも思うものか」
差しあたっては林之助はこう言うよりほかはなかった。彼はこの上に向島の一件を詮議するわけにもいかなかった。お絹もきょうはお里のことはひと言もいわなかった。ふたりは秋の雨を聞きながら静かに世間話などをしていた。二人がこれほどむつまじく打解《うちと》けて話し合っているのは近頃に珍らしいことで、次の間で聞いているお君もなんとなく嬉しかった。
しかし、こうして打解けているのは表向きで、二人の魂はかえってしだいに遠ざかっていくのではないか、というような寂しい思いが林之助の胸に湧いた。口では何とも思っていないと言うものの、向島の一件はまだ自分の胸の奥にわだかまっている。お絹もお里のことを忘れたのではあるまい。たがいの胸に思うことを抱《だ》いていながら、それを押し隠して美しく附き合っている、それがすでに他人行儀ではあるまいか。たがいの思うことを遠慮なく言い合って、泣いたり笑ったりした昔の方が林之助はいっそ懐かし
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