たのか、それとも後悔してあやまりに来たのか。いずれにしても、林之助はいい心持ちでその話を聞くことは出来なかった。
「しかし折角ここまで来たもんだ。行ってみよう」
 林之助はまっすぐに本所へ行った。傘をかたむけて狭い路地へはいると、路地のかどの店にはもう焼芋のけむりが流れていた。お絹の家は昼でも表の戸が閉めてあったが、叩くとお君がすぐに出て来た。
「おそろしく用心がいいね」
「ここらは下駄を取られますから。格子に錠《じょう》がないんですもの」と、お君は言い訳をしながら濡れた傘を受取った。
 奥に寝ていたお絹はすぐに起き直ったらしい。林之助が足駄《あしだ》をぬぐのを待ちかねたように声をかけた。
「お前さん。きのうなぜ来てくれなかったの」
「きのうは御用で牛込へ行った」
 枕もとに坐った林之助の顔を、お絹は黙ってじっと眺めているので、彼は堪えられなくなって眼をそむけた。
「下手な捕人《とったり》のように、ふた口目には御用、御用……。屋敷者はほんとうに都合がいいね」
「屋敷者も楽じゃあねえ」
「楽じゃあねえ屋敷者を好んでする人もあるのさ。誰も頼みもしないのに……」と、お絹は口で笑いながら睨んだ
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