らもとどこおりなく行き渡って、今夜ここでお絹と膝を突きあわせるまで手順よく運んだのである。彼はかなりに飲める口とみえて、二人の女を向うへまわして頻りに杯をはやらせていた。
男振りもまんざらではない、道楽者だけに容子《ようす》も野暮ではない。お花が頻りに褒めちぎっているのも、あながちに欲心からばかりでもないことをお絹も承知していた。彼女が今夜ここへ呼ばれて来たのも幾分か浮いた心も伴っていないでもなかった。どうで林之助とは添い通せる仲ではない。殊に男は不二屋のお里の方へとかく引き付けられるようになっている。自分だけが人知れずに苦労しているよりは、ちっとは面白く浮かれて見るもいいと、自棄《やけ》も手伝った気まぐれから、今夜すなおにお花に誘い出されたのであった。しかし来てみると、やはり面白くないことが多かった。
第一には、この家《うち》の女中たちの素振りが面白くなかった。かれらは自分の素姓を薄々知っているらしく、口へ出してこそ何とも言わないが、蛇つかいの女をさげすむような、忌《い》み嫌うような気色をありありと見せていた。自分の商売の立派なものでないことは、お絹自身もむろん承知しているので、
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