林さんの姿を見掛けるようなことがあると……」
青い蛇の首がお絹の袂の下から出た。
「あたしはこれを持ってお里のところへお礼に行くからね」
「姐さんばかりじゃない。あたし達も加勢に行くよ」と、お花も一緒になって嚇した。
嚇されてお此はまた縮みあがった。
「冗談じゃあない、本当にこれでお里の頸を絞めてやるから」と、お絹の白い手のさきには蛇の頭が気味悪くうごめいていた。
お此は二朱の銀を頂いて早々に逃げて帰った。
七
「まあ、誰から来たんだろうね」
大きい鮓《すし》の皿を取りまいて、楽屋じゅうの者が眼を見あわせていた。お此が嚇されて帰ったあとへ、木戸番の又蔵《またぞう》が鮓屋の出前持ちと一緒に楽屋へはいって来て、お絹さんへといってその鮓の皿を置いて行った。
「誰が呉れたの」と、お花が訊いた。
「あとで判りやす」
又蔵は笑いながら行ってしまった。お遣い物の主《ぬし》は結局判らなかった。しかし、こんなことはさのみ珍しくもないので、みんなは今まで駄菓子をさんざん噛《かじ》った口へ、さらに鮪《まぐろ》やこはだ[#「こはだ」に傍点]や海苔巻を遠慮なしに押し込んだ。お絹も無理に勧
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