とまで残らずしゃべり尽くしてしまったお此は、もうこの上はおそろしい蛇を頸《くび》に巻き付けられても、なんにも口から吐き出す材料はなかった。
「後生《ごしょう》ですからもう堪忍して下さい。まったく何んにも知らないんですから」と、お此は手を合わせないばかりにして、自分に詐《いつわ》りのないことを訴えた。
「もういいでしょうよ。姐さん」
 お花も見かねて取りなし顔に言った。自分が先き立ちになってお此を責めたのではあるが、蛇責めのむごい拷問《ごうもん》には彼女もさすがに驚かされた。
 罪のないお此をそれほどに窘《いじ》めるのも可哀そうだと思ったので、お花も仕舞いには却ってお絹をなだめる役にまわったのである。
「あんまり窘めて済まなかったね。こりゃあお菓子の代だよ」
 二朱《にしゅ》の銀《かね》をお絹から貰って、お此は又おどろいた。お絹は剰銭《つり》はいらないと言った。
「その代りにお前さんにことづけを頼みたいんだがね。不二屋のお里に逢ったらば、これから林さんをいっさい寄せ付けないようにしてくれと、そう言っておくれ。いいかい。よく忘れないようにお里に言っておくれよ。もしこののちも相変らず不二屋に
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