あわせたのであるから、並大抵の言い訳ではお絹はどうしても承知しなかった。
「お此さん。おまえさんも強情を張らないで、知っているだけのことは言っておしまいよ」と、お花もそばから口を出して責めた。
「だって、お前さん。あたしがその本人じゃあるまいし、人のことがどうして判るもんですかね。そんな無理なことを……」
 半分言うか言わないうちに、お絹は黙ってお此の腕をつかんだ。
「あ、姐さん。どうなさるんです。ひどいことを……」
 振り放そうともがくお此の痩せ腕を、お絹は挫《ひし》ぐるばかりに片手でしっかり掴みながら、片手で箱をとんとん[#「とんとん」に傍点]と叩くと、穴の中から青い蛇が長い首を出した。お絹はその鎌首をつかんでずるずると引き出して、お此の鼻の先へ突きつけた。
「さあ、言わないか」
 お此は真っ蒼になって口もきけなかった。彼女は死んだ者のようになって唯ぼんやりしていると、お絹はものすごい眼をしてあざ笑った。
「じゃあ、隠さずに言うかえ。なんでもいいからお前さんの知っているだけのことを言っておしまいよ」
 世にもおそろしい蛇責めに逢っては、お此もしょせん逃がれる術《すべ》はないと観念し
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