いう保証の詞《ことば》をきかされて、お絹は頼りないなかにも何だか心強いようにも感じた。
苦《にが》い酒も無理に飲んでいるうちに幾らか酔いがまわってきて、自分ひとりでくよくよ考えていても詰まらないというような浮いた気も起った。このあいだから自分の小屋へ足ちかく見物にくる若旦那ふうの男があって、それは浅草の質屋の息子だとお花が話したことも思い出された。その男もまんざらの男振りではないなどとも考えた。自分が舞台から情《じょう》のこもった眼を投げれば、かれを捕虜《とりこ》にすることはさのみむずかしくもないというような、一種の誇り心も起った。そうは思っても、やはり林之助が恋しかった。
お絹とお君が夜露にぬれて一つ目の家へ帰り着いたのは、その夜の五つごろ(午後八時)であった。家には毎日留守番をたのむ隣りのお婆さんが眠そうな眼をして待っていた。お婆さんはお土産の折《おり》を貰って喜んで帰った。
「君ちゃん。戸をお閉めよ。もうすぐに寝ようじゃないか」
「はい」
お君は素直に格子を閉めにいった。お君は近所の大工の娘で、家の都合がよくないのと、現在の母は生みの親でないのとで、去年からお絹の家《うち》
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