えた。
「たった今です。ともかくもすぐ来ておくんなさい。みんなも待っていますから」
 林之助は行かれないと気の毒そうに言った。なにぶんにも主人はあした早朝の登城であるから、自分がこれから屋敷を明けるわけにはいかないと断わった。豊吉は不平らしくぐずぐず言っていたが、林之助はまったくどうしても行くことが出来ないのであった。彼はいろいろに訳をいって、ようように豊吉をなだめて帰した。
「薄情ですねえ。お絹さんが化けて出ますぜ」と、豊吉は忌味《いやみ》をいって帰った。
 なんと言われても林之助は仕方がなかった。豊吉ばかりでなく、きびしい屋敷の掟《おきて》を知らない者どもは、みんな自分を薄情とか不実とか非難《ひなん》しているであろうと、林之助は心苦しく思った。そうして、お絹の死に目に会わなかったことが残り惜しくも思われた。自分にも罪があるように思われて何だか気が咎めてならなかった。それと同時に、自分のからだをくくられていた縄が自然に解けたような軽い気にもなった。
「おれがお絹を殺したわけではない」と、彼は自分で自分を弁護した。死に目に会えなかったのも自分の罪ではない、今夜行かないのも自分の薄情から
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