、新古東西の瓦落多《がらくた》をかなりに蒐集《しゅうしゅう》していたが、震災にその全部を灰にしてしまってから、再び蒐集するほどの元気もなくなった。殊《こと》に人形や玩具については、これまで新聞雑誌に再三書いたこともあるから、今度は更に他の方面について少しく語りたい。
 これは果して趣味というべきものかどうだか判らないが、とにかくわたしは汽車の停車場というものに就て頗《すこぶ》る興味を有っている。汽車旅行をして駅々の停車場に到着したときに、車窓からその停車場をながめる。それが頗る面白い。尊い寺は門から知れるというが、ある意味に於て停車場は土地その物の象徴といってよい。
 そんな理窟はしばらく措《お》いて、停車場として最もわたしの興味をひくのは、小さい停車場か大きい停車場かの二つであって、どちら付かずの中ぐらいの停車場はあまり面白くない。殊に面白いのは、一《ひ》と列車に二、三人か五、六人ぐらいしか乗降りのないような、寂しい地方の小さい停車場である。そういう停車場はすぐに人家のある町や村へつづいていない所もある。降りても人力車一台もないようなところもある。停車場の建物も勿論小さい。しかもそこ
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