黙って顔を見合せた。浄閑寺の鉦がまたきこえた。
綾衣は起って仏壇の燈明をかき立てると、白地に撫子《なでしこ》を大きく染め出した艶《はで》な浴衣が裾の方から消えて、痩せた肩や細った腰が影のようにほの白く浮いて見えた。仏壇の花生けには蓮の花が供えてあった。綾衣はそのひと枝を押し戴いてとって、重なり合った花びらをしずかにむしり取ると、匂いのある白い花は彼女の袖に触れてほろほろ[#「ほろほろ」に傍点]とこぼれて、うす暗い畳の上に雪を敷いた。
外記は無言で笑った。
星は隠れていよいよ暗い夜になった。お米と十吉は帰って来た。途中で折りおりに稲妻が飛ぶので、お米は怖がっていた。
内へはいって二人は更に怖いものを見せられた。蒼い蚊帳のなかに、外記は腹を切っていた。綾衣は喉を突いていた。男も女も書置きらしいものは一通も残していなかった。多くの場合、書置きというたぐいのものは、この世に未練のある者が亡き後をかんがえて愚痴を書き残すか、あるいはこの世に罪のある者が詫び状がわりに書いて行くのであるが、二人はこの世に未練はなかった。また懺悔《ざんげ》するような罪もないと信じていた。褒めようが笑おうが、
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