箕輪心中
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)お米《よね》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四百|間《けん》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日+向」、第3水準1−85−25]
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     一

 お米《よね》と十吉《じゅうきち》とは南向きの縁に仲よく肩をならべて、なんにも言わずに碧《あお》い空をうっとりと見あげていた。
 天明《てんめい》五年正月の門松《かどまつ》ももう取られて、武家では具足びらき、町家では蔵《くら》びらきという十一日もきのうと過ぎた。おととしの浅間山《あさまやま》の噴火以来、世の中が何となくさわがしくなって、江戸でも強いあらしが続く。諸国ではおそろしい飢饉《ききん》の噂がある。この二、三年はまことに忌《いや》な年だったと言い暮らしているうち、暦はことしと改まって、元日から空《から》っ風の吹く寒い日がつづいた。五日の夕方には少しばかりの雪が降った。
 それから天気はすっかり持ち直して、世間
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